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木に登るパンダ

今回は上野動物園の第14代園長を務めた土居利光氏による特別寄稿。ジャイアントパンダ保護研究センターでの貴重なエピソードとともに、パンダたちへの特別な思いを伺いました。

パンダは木登りが好き、姿を観るたびにこのことを思う。10年ほど前、中国重慶で開催された繁殖研究会議に出席した。終了後、重慶から列車で2時間の雅安のジャイアントパンダ保護研究センターを訪れた。当時、そこでは80頭余りのパンダが飼育されていた。2008年に起きた四川大地震によって臥龍の飼育場から避難してきたものを受け入れたためである。それ以前には20頭くらいしかいなかった。担当者は、一頭一頭の飼育場所が前より狭くなってしまったのが残念だと話してくれました。

午前中は入り口の近くの事務所で打合せだった。途中で休憩と言って、外に出た。
10分ほど歩くと右手に飼育場があり、木の屑に子パンダが休んでいた。しばらく眺めていたが、動くことはなかった。事務所に戻ると打合せを再開した。午後には終了したのだが、食後、帰り際にわがまま言って午前中のパンダを見に行く時間をもらった。汗をかきながらたどりつくと、パンダは木の上にいる。姿勢は変わったようだが相変わらず器用な姿勢で、木の股に腰かけるでもなく、座るでもなく、横たわるでもなく、微妙なバランスでくつろいでいるように見える。天真爛漫とも言えるが、こうした時間を過ごすことを当然としている飼育のあり方に感心した。

野生パンダの生息数は1,800頭程度とされている。もともとはクマの仲間であったが、竹を食べるということを進化の戦力にして種の生き残りを図ってきた。人間による開発や気候変動などにより竹が少なくなることはパンダには想定外であっただろう。一方、保護研究センターなどで飼育されている数は700ほどになってきた。将来は野生に戻すことも考慮して、工夫された飼育がされるようにもなってきている。
子パンダは母親と一緒に暮らす時間のなかで学んでいく。野生に生息する天敵の声が聞こえた場合など、親から促されて子は木に登る。木に登ることはパンダの安心につながっているのかもしれない。今でもパンダを観るときには、ふと、木に登るパンダを思い出す。そして、パンダは木登りが好きだということを実感し、こうした姿がいつまでも続くようにとも思う。

土居光利さんプロフィール

日本パンダ保護協会会長。2005年多摩動物園園長を経て、2011年8月より恩賜上野動物園の14代園長に。2017年恩賜上野動物園を退職。

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